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医療における安全の確保は、医療を提供する者にとっての最重要課題です。
患者・家族の方々に安心して医療を受けていただけるように、当院では基本理念・基本方針に医療の安全を掲げ、個々の医療者とともに病院組織全体で医療の質の向上と安全の確保に努めています。
医療の安全を高めるために、当院では個々の職員の努力だけに頼るのではなく、医療安全管理委員会とその実働部隊としての医療安全管理室を設置し、各部署のセーフティマネージャー(医療安全現場責任者)とともに組織的な改善活動に取り組んでいます。
医療に伴って発生した有害事象(医療事故を含む)やヒヤリとした、ハッとした事象を病院職員に自主的に報告してもらい、その有害事象の原因や誘因を検討します。そして、有害事象を未然に防ぐ対策や有害事象による被害を小さくする対策などを立案し、周知の上、実行に移しています。
医療安全活動の啓発・普及のために、講演会や実技トレーニング、ワークショップ形式などの職員研修を企画し実施しています。また、個々のテーマで、職員への注意喚起や安全対策の周知のために「安全管理ニューズレター」を発行しています。
医療現場の危険箇所や場面を調査し、職員の安全活動の実践状況を確認して、現場への改善指導を行っています。
医療安全管理室のメンバーは、多職種で構成され、病院全体の取り組みを行っています。
室長 | 医師1名(医療安全担当副院長) |
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副室長 | 看護師1名(医療安全管理専従) |
スタッフ | 薬剤師1名、 医事課3名、総務課1名、交代制医師1名、臨床工学技師1名 (要時:臨床検査技師1名、診療放射線技師1名) |
当院では産業界のノウハウに学び、指示出し・指示受け・実施の際のエラーを防ぐために、「指差し・声出し確認」の周知・徹底に努めています。
手術部では、手術室入室時に看護師と麻酔科医により患者確認を行うとともに、手術体位や術野消毒の前に、一旦作業を止めて(タイムアウト)、外科系主治医・担当医と麻酔科医、看護師が患者確認だけでなく予定手術術式や左右の区別などを最終確認する取り組みを推進し、思い込みによる間違い防止に努めています。
放射線部門でも、侵襲的検査・処置を行う場合にタイムアウトを行い、主治医と看護師、放射線検査技師による患者確認、実施検査・処置確認、部位確認を推進しています。
また、看護部門では、部署の職員全員が手を重ねて今日の目標を声に出して唱和すること(タッチ・アンド・コール)を推進し、安全作業ポイントの意識付けと、連帯感や活動意欲の向上に努めています。
多忙な病棟業務においては、患者さんからのナースコールをはじめ様々な業務が重なり、作業を中断せざるをえないことがあります。
こういった場合、作業再開時に確認が疎かになったり、別の職員が作業を引き継いだ時に思い込みによる間違いをする危険性が生じます。
そこで、誰が作業を中断しているのかを明示し、職員名入りのイエローカードで、再開時の確認不足や引き継ぎミスの防止に取り組んでいます。
ネームバンドの活用や診察券などでのフルネームの確認だけでなく、患者さん自身にも氏名を名乗っていただく方法を推進し、患者間違いの防止に努めています。
安全な医療の提供のため、ご協力をよろしくお願いします。
毒薬、劇薬、危険薬など、使い方を間違えば身体に大きな影響を及ぼす薬がたくさんあります。これらの薬は、思い込みによる間違いを減らすためにダブルチェックが必要な薬剤としてリストにしています。薬剤部では調剤する薬剤師と監査する薬剤師によるダブルチェック、病棟などでは看護師同士や看護師と医師によるダブルチェックを行っています。
最近では、各学会で疾患別の診断・治療ガイドラインの作成が進んでいます。
当院でも、これらのガイドラインに準拠した診断や治療の実践に努めています。クリニカルパスの作成・活用、各種説明文書の作成・活用などもその一環です。
また、静脈血栓塞栓症予防や敗血症診療の質向上のための当院版ガイドラインの作成や低血糖時の共通指示、転倒・転落事故による頭部打撲時の対応手順の作成などを行っています。
医療の質の向上や安全性の確保のためだけでなく、病院における様々な業務の改善のために、各部署やチーム、グループが行っている活動に光を当てて応援する試みを平成21年度より開始しました。
年に1回、院内の様々な職種の取り組みを紹介する改善活動発表を行い、病院全体に地道な改善活動の輪を広げる取り組みを行っています。
医療安全を高めるために、医療安全に関する院内研修を病院として実施し、職員全員が受講することが重要です。時間の都合で全体研修に参加できない職員のため、ネット環境があれば研修ができるeラーニング(Safety Plus®、エルゼビア・ジャパン社)を平成30年8月に導入しました。コースは現在約55のコンテンツがあり、全職員が研修を受けることができるシステムにしています。
医療安全に関する職員研修も大切な取り組みとして積極的に行っています。令和3年度に開催したものは以下の通りです。
第1回全体研修会 令和3年6月1日~7月31日 |
院内事例をまとめたeラーニングで開催 参加713名 テーマ:令和2年度のインシデントを振り返って |
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第2回全体研修会 令和3年9月1日~10月31日 |
eラーニングで開催 参加702名 |
第3回全体研修会 令和3年11月1日~1月31日 |
eラーニングで開催中 テーマ:放射線科被曝について(放射線技術部) |
医療ガス安全管理研修会を医療ガス安全管理委員会、呼吸ケアチームと合同で開催しました。(令和2年10月7日)
インスリン講習会、人工呼吸器・血液浄化装置・シリンジポンプなど医療機器の安全使用、MRI検査や造影剤使用上の注意、心肺蘇生法の研修など医療安全に関連する部門別研修会を実施しています。
医療の安全を高める取り組みは、単に医療者の注意や知識・技術の向上だけで成り立っているのではありません。患者さん自身の協力や、場合によって家族の方々の協力があって初めて確保できる安全も少なくありません。当院では患者さん自身や家族の方にも医療に積極的に参加をお願いしています。医療の安全を高める取り組みにも積極的にご協力ください。
こちらからお呼びしたお名前の聞き間違いや、同性によく似たお名前の患者さんでの間違い事例が過去にありました。そのため、外来診察や検査室では診察券などでのフルネームの確認だけでなく、患者さんに自ら名乗っていただくようにお願いしています。
入院患者さんには特別な場合を除いてネームバンドの着用をお願いしています。
カルテ(診療録)や診察券などでの患者氏名の確認だけでなく、入院患者さんの場合にはネームバンドによる患者確認を推進していますのでご協力をお願いします。
転倒・転落は入院中にも起こりやすい事故の一つです。 普段とは違う環境や体調の変化で、思いがけなく転んだり、ベッドから落ちたりすることがあります。 軽い打撲程度で済む場合がほとんどですが、時に骨折や脳出血などをきたして手術を必要としたり、ごく稀に死亡事故につながることもあります。
当院では入院患者さんが転倒や転落を起こす危険性を評価し、患者さんや家族の方に転倒・転落防止対策の必要性を説明して協力をお願いしています。
トイレへの移動などで看護師を呼ぶのをためらう患者さんも多く、一人で動いて転倒する患者さんが後を絶ちません。歩行や起立、移動に少しでも不安があれば、ナースコールで看護師をお呼びください。
自宅での状況も含めて、患者さんをよく見ておられる家族の方からの情報はとても大切です。家族の方から見られて不安に感じられる部分があれば、医師や看護師にお伝えください。
認知症やせん妄症状のある方だけでなく、入院中の患者さんの多くに転倒や転落の危険性が潜んでいます。出来るだけ安全に配慮して対応しておりますが、それでも危ない場合には、必要に応じて家族の方に付き添いをお願いしています。
薬の重複処方を防ぐだけでなく、薬の相互作用による弊害を防ぐために、他病院でも薬の処方を受けられている場合は、必ず主治医・担当医や看護師、薬剤師にお伝えください。
最近は、動脈硬化等に伴う血栓形成を防ぐ目的で、抗血小板剤や抗凝固剤を服用されている患者さんが増えています。出血を生じる可能性のある検査や処置、手術においては、安全のために服用を中止していただくことがありますので、前もって担当医や看護師にお知らせください。
但し、服薬を中止できない場合もありますので、自分の判断で中止しないようにお願いします。
暴力・暴言などで他の患者さんにご迷惑がかかる場合や医療者の診療行為が妨げられる場合には、たとえ患者さんであっても診療をお断りしたり、中止することがあります。入院中の患者さんの場合には退院を命令することがあります。また、必要に応じて警察へ通報することがありますので、あらかじめご了解ください。これらは患者さんだけでなく、ご家族や友人の方々の行動であっても同様に対処させていただきます。
これらの行為は酒酔いなどを理由に免罪されるものではありません。暴力だけでなく、数々の暴言や威嚇行為が、患者さんのために働こうとしている医療者に不安と恐怖を与え、診療の妨げになっている実情をご理解下さい。
医療者と患者さんや家族の方との間の情報交換、コミュニケーションの不足がいろいろな場面での誤解や紛争の要因になっていることは、識者の指摘を待つまでもなく現場の人間にはよく理解されていることです。
したがって、医療の現場のかかえる問題を広く一般の方々に知っていただくことは重要と考えています。
「医療崩壊」という言葉や「医療の不確実性」という言葉を耳にされた方もおられるでしょう。
例えば、薬には期待する効果もある代わりに副作用もあります。病気を治すために行われる手術にも合併症という期待に反する有害事象がある程度の確率で起こりえます。医療行為は、それ自体が人の身体(からだ)に侵襲(ある意味での「傷害」)を与えるものであり、医療の進歩の中で数々の侵襲的検査や治療が行われるようになったこと自体が様々な有害事象を生じる原因でもあります。
このようなことからも分かるように、医療には100%の安全はありません。
一方、医療従事者も人であり、間違いを犯すことがありますし、システムそのものの問題が原因となって生じる有害事象もあります。
しかしながら、最近の医療不信の高まりの中で、このようなヒューマンエラーやシステムエラーと医療そのものが持つ不確実性が混同されて、医療に伴う有害事象を全て医療ミスと誤解している一部のマスメディアや患者、家族、一般の方々もおられます。
医療におけるヒューマンエラー、システムエラーの問題が大きく取り上げられるようになって15年以上が過ぎます。人は間違いを犯すものという観点からシステムの改善に取り組んだり、人間工学的な研究からヒューマンエラーに取り組む活動が進められています。
しかしながら、医療はあまりに人間的な要素が多く複雑で、科学とはいえ実に不確実性を持った分野であることなどから、他の業界での取り組みを真似るだけでは不十分で、医療の現場に合った対策が必要です。
多くのマスメディアで使われている「医療事故」という言葉には、どうも「ミス」や「過誤」、「過失」のイメージないしは意味合いがついてきます。しかしながら現在、医療界で使われている「医療事故」という言葉の定義の多くは、医療側に過失がない場合を含んでいます。
このように、「医療事故」という言葉の定義や使われ方がマスメディアと医療機関の間で異なっていたり、医療機関の間でも統一されていない実情の中で、言葉の捉えられ方によって、一般の方々に誤解されていることもありますし、医療者内部にも混乱が生じています。
医療安全のための活動が日本に紹介された当初、産業界で使われている「事故」という言葉に習って、英語の「adverse events」の訳に「医療事故」という言葉が使われました。
航空機事故の場合は、パイロットの人為的ミスよりも機器の故障や整備の問題、気象条件などの原因を思い描くことが多いのに対して、医療事故の場合は医師や看護師の人為的ミスや失敗をイメージしてしまうことが多いのはどうしてでしょうか?マスメディアによる報道の仕方や医療界の密室性などと関連しているのでしょうか?
「医療の不確実性」の項でも述べましたが、医療には100%安全ということはありません。医療行為そのものや薬剤自体が様々な有害事象を生じる原因でもありますし、人である医療従事者や病院のシステムそのものに問題があって生じる有害事象もあります。
私たちは、そのような医療の現状をもっと広く市民の皆さんやマスメディアの方々に理解していただきながら、「医療事故」にからむ誤解も解いていくことが必要と感じています。
その一環として、「医療事故」という言葉を患者・市民の皆さんにも医療従事者にも分かりやすい、納得しやすい言葉に置き換えて定義していくことが必要と考え、さらに、その内容を現在の医療水準に照らして医療者に過失のある事象とない事象、防ぎうる事象と防ぎ得ない事象などに分けて整理して情報発信していくことが必要と考えています。
私たちは、これまで「医療事故」として定義されていた事象を、最近、学会などでもよく使われるようになった「医療に伴う有害事象」という大きな分類に置き換えて、不必要な混乱を解消していきたいと考えています。
「医療に伴う有害事象」には、発生場面として、医療行為に関連した事象と医療行為に関連していない事象があります。また、発生要因が、医療者側にある場合と患者側にある場合、両者にある場合(関与の比率は様々)があります。転倒や転落の中には医療者が防ぎえない場合が多いですし、誤嚥や窒息などでは患者さんの側の要因が大きい場合もあります。
医療者側の過失の関与については、過失のある場合と過失のない場合があります。勿論、過失の定義は難しく、法的な意味で使われる「過失」の判断は簡単なものではありません。また、その時代の「標準的」とされる医療レベル、その病院の医療レベル、医療従事者の医療レベルにおいて、防ぎえるものと防ぎえないものの認定は異なります。したがって、過失のない場合でも、全くの不可抗力と言うべきケースと何らかの条件が整えば防ぎうるケースがあるのが現実です。
わたしたちは人が犯す間違いを何らかの対策で防いだり、減らしたり、また、影響を弱めたりする努力を行っているのですが、まだまだ根本的解決は難しいのが実情です。
今大切なことは、これらの問題を整理して情報を共有し、お互いに理解を深めていくことだと思います。一部のマスコミのように犯人さがしをするのではなく、また、お互いに責任の押し付け合いや回避をするのではありません。患者さんのための医療が、その言葉通りに安全に行われるように、医療に関わる者たちが協働していくことが必要です.
大きな事故を防ぐために、人間は自らの注意だけに頼るのでなく、いくつかの防御網を作って事故を防ごうとしていますが、それでもその防御の網の目をすり抜けて事故は発生します。
幸い大きな事故にならなかったけれども、ヒヤリとしたりハッとするような事柄は、そのすり抜けやすい網の目を私たちに教えてくれます。ですから、インシデントを集めて、その要因を調べることは、大きな事故の発生を防ぐ対策作りに非常に役立ちます。
そこで、 医療事故の発生要因を検討し対策を考えるために、医療に伴う有害事象やヒヤリ・ハット事例など広い意味でのインシデントを調べて、 病院内の業務上の問題を改善していこうというのがインシデント報告・収集活動の目的です。勿論、これらの報告は院内職員からの自発的な申告ですので、個人の責任を追及するような使い方はせず、改善を考える気風作りに役立てています。その上で、職員が報告しやすくなるように、報告経路の単純化や報告方法の改良に努めてきました。
平成20年10月からは、広い意味でのインシデント報告を(1)インシデント一般、(2)転倒・転落、(3)合併症・副作用に3分類して、医師や薬剤師からの報告も促しています。
以下のグラフ1は、医療に伴う有害事象やヒヤリ・ハット事例など広い意味でのインシデントの報告件数(複数職員が同一事例を報告した場合も含む延べ件数)の年次推移を示したものです。
確かに有害事象や事故は少ない方が良いですね。そういう意味ではインシデントの数は少ないに越したことはありません。一方で、患者さんに傷害は与えなかったけれど実際に起こってしまったエラーや患者さんに実施される前に未然に防げたエラー(ヒヤリ・ハット事例)を大きな事故の芽として報告してくれる職員が多いほど、職員の安全への意識は高いとも言えます。
私たちは、報告されていない小さな有害事象やヒヤリ・ハット事例はもっと多いのが実際と考えていますので、事故防止策の立案につなげていくために各職員に報告を促しています。
令和2年度の一般報告1059報告のうち、職種別には看護師からの報告が最も多く、806報告(全体の76.1%)を占めていました。薬剤師の病棟配置により薬剤師からの積極的な報告があり、84報告(全体の7.9%)の報告がありました。薬剤師からの報告の大半は医師の処方や与薬に関連したヒヤリ・ハット事例であり、薬剤関連の事故防止のための薬剤師の役割の一端を示しています。医師からの報告は42報告(4.0%)と少なく、今後、医師の協力を如何に引き出すかが課題となっています。
なお、インシデント報告数に関しては、100床当り年間300~500件(例えば、当院では年間1100~1800件)が一つの目安という話がありますが、その数値の評価にはそれぞれの医療機関における背景因子などを加味する必要があります。また、新型コロナウイルス感染症による入院制限のため、入院患者数自体が減少したことも影響していると思います。
なお、インシデント報告数に関しては、100床当り年間300~500件(例えば、当院では年間1100~1800件)が一つの目安という話がありますが、その数値の評価にはそれぞれの医療機関における背景因子などを加味する必要があります。
令和2年度のインシデント一般報告1059報告(重複報告を含む)のうち、アクシデント事例(レベル3b以上)は9報告、簡単な処置を必要とした事例(レベル3a)が113報告、診断のために検査を必要とした事例や観察を強化した事例(レベル2)が49報告、経過観察のみで済んだ事例(レベル1)が540報告、患者さんにエラーを実施する前に発見できて未然に防げた事例(レベル0)が348報告でした。転倒・転落報告、合併症・副作用報告については後述します。
令和2年度のインシデント一般報告の内訳(グラフ2)を見ますと、全国的なデータと同様に、薬剤の処方・与薬、調剤、管理に関するインシデントが最も多く、419報告(39.6%)を占めています。
その内容としては、確認不足や思い込みによる与薬忘れや錠数間違い、点滴速度の遅い・速いなどで、患者さんに実害のなかったものがほとんどです。しかし、投与すべき患者さん間違いや薬剤間違いなどもあり、これらが大きな事故につながらないようにするために、名前確認や指さし呼称、ダブルチェック体制などにより確認作業の徹底に努めています。
次いで、各種チューブ類の自己抜去が85報告(8.0%)で、認知症やせん妄患者への対応に苦慮しています。また、患者間違いも62報告(5.9%)ありました。
院内での転倒やベッドからの転落は広義のインシデント報告の主要な事象です。
グラフ1から当院での転倒・転落報告数の年次推移をみますと、年間300~400件の報告が続いており、令和2年度は387報告でした。
転倒・転落の発生には、入院患者に占める高齢者の割合の増加やそれに関連した認知症・せん妄患者さんの増加や、在院日数の短縮に伴う入院患者の入れ替わりの増加が大きく関与しています。高齢者に見られる筋力やバランス力の低下、認知症やせん妄状態における判断力の低下や危険行動の繰り返しは転倒・転落事故の大きな要因になっています。その他には、職員の安全意識の向上も転倒・転落報告件数の増加をもたらしていると思われます。
つまり、筋力の低下した患者さんが看護師を呼ばずに一人でトイレに行こうとして膝をつくような事例など軽微な転倒事例の報告も増え、大きな転倒事故を未然に防ぐための意識や注意力も向上してきています。
令和2年度の転倒・転落報告件数は387報告でしたが、そのうちアクシデント事例(レベル3b以上)は6報告で、レベル5(死亡例)はありませんでした。また、医療側のエラーに起因した事例はありませんでした。
その他は、簡単な処置を行った事例(レベル3a)が21報告、診断のためにレントゲン検査を行った事例(レベル2)が71報告、経過観察のみで済んだ事例(レベル1)が289報告でした。
これらの転倒・転落の発生場面としては、排泄行動に伴うものが多く、それが人手の少ない夜間帯に増加する点が問題です。また、個々の事例については年齢や病気・病状の違い、打撲の部位や程度などの違いに加えて、転倒・転落防止対策を難しくする認知症やせん妄の有無など数多くの要因が影響しますので、事故を画一的に論じることはできません。
確かに、病院に入院されている中での事故として、病院には大きな意味での管理責任はあると思います。しかしながら、現実の医療体制の中では防ぎうる事故と防ぎえない事故があることを理解していただきたいと思います。
患者さんが危険な動きをしないように何らかの方法で身体を拘束したり抑制したりすることは特別な状況でない限りできませんし、1対1で常時監視することができない中では、患者さんの転倒やベッドからの転落を全て防ぐことはできません。1フロア50床の一般病床の深夜帯に勤務する看護師数は3~4名という現実の中で、実際に家族の方に付き添っていただいている時でも転倒・転落事故が起こっているのが実情です。
認知症の患者さんやせん妄状態にある患者さんが多い中で、転倒・転落をゼロにできないのが現実なのです。
当院は完全看護ではありません。7対1看護体制を確保していますが、病棟によって看護師の人数は異なります。HCUでは通常家族の方の付き添いはお断りしていますが、一般病棟では必要に応じて家族の方に付き添いをお願いしています。特に夜間帯は看護師が少なくなりますので、家族の方の協力が不可欠な場合があります。
ただ、現実は、家族の方々も病院で付き添える状況にないことが多く、医療者側もなかなか強く付き添いをお願いできないという状況です。特に現在の新型コロナウイルス感染症の状況では難しい状況です。
手術や処置、検査には、期待する結果とは違った望ましくない結果(ある種の有害事象)がある程度の確率で発生することがあり、合併症と呼んでいます。
合併症のほとんどは、標準的な医療の中でも起こりうる、過失とは言えない内容のものです。しかし、合併症のごく一部には、明らかな医療者のミスやエラーに起因したものがあるのも事実です。以前は、これらが混同されて、医療者側に過失のない合併症までもが医療ミス、医療事故と見なされるという混乱が多かったように思われます。
合併症については、それぞれの専門診療科において原因を検討し、医療の質の向上につなげるという地道な活動が基本ですが、病院全体としても標準的な医療から逸脱した行為がないかとか合併症の発生率が異常に多くはないかなどをチェックし、医療の自律・自浄性を高める必要があります。
そこで、平成20年10月から当院では、病院の医療安全管理活動として手術や処置、検査に伴う合併症(感染症を除く)ならびに薬物治療による副作用(一般的なものを除き、重篤な副作用や予期しない副作用を対象)の収集・分析活動を開始しました。医師の理解と協力を得ながら、事例の収集・分析を進めて治療や処置、検査による合併症の防止策につなげようと考えています。なお、感染症に関しては、院内の感染管理委員会・感染管理チームによるサーベーランスを行なっています。
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