食道がんは、腫瘍の広がりや転移の有無によって治療法に違いがあります。内視鏡及び色素内視鏡による深達度診断、CT・MRなどの画像診断により総合的に判断し、病期に即した最適な治療法を提供しています。また、放射線科、消化器内科などとも緊密なカンファレンスを行い、レベルの高い診断・治療を目指しています。
食道がんは2018年の統計では、男性で罹患者(りかんしゃ)数第9位 (21,353人)、女性で第21位 (4,565人)となっており、罹患率はそれほど高くありません。比較的男性で罹患率(りかんりつ)の高い疾患で、女性では稀ながんと言えます。
年齢階級別に見ると、男女ともに40代後半から罹患率が上昇し、70台後半から80代前半が最も罹患率が高くなっています。
食道がんの死亡数は男性で第9位 (9,571人)、女性で第20位 (2,048人)となっています。がん全体では死亡数はそれほど多くはありませんが、女性に比較して男性の罹患率が高いため、死亡数も男性の方が多くなっています。
年齢階級別死亡率では50代から増加しはじめ、年齢が高くなるにつれて増加します。
食道がんの罹患数は1975年から増え続けています。これは高齢化も一因と考えられます。一方、死亡数は2010年あたりで頭打ちです。罹患数が増え続けているのに、死亡数は頭打ちであることは、早期発見の割合が増加してきていることと、治療法の進歩により治る人が増えていることが考えられます。
年齢を1985年の基準人口の分布に合わせて計算した年齢調節罹患率を見ても罹患率は緩やかにはなりますが、右肩上がりに上昇しています。これは高齢化だけが原因ではないことを表していますが、なぜ食道がんが増えているのか原因はわかっていません。
一方、死亡率は2000年あたりから明らかに右肩下がりです。これは早期発見の割合が増加してきていることと、治療法の進歩により治る人が増えていることを確実に表していると思われます。
咽頭(いんとう)を通ると食道の入り口があり、食道入口部と呼ばれます。そこから前方に気管、後ろ横に大動脈と接しながら胸の中を下るように走行し、横隔膜の食道裂孔を通ってお腹の中の胃とつながります。胸骨上縁(きょうこつじょうえん)までが頚部食道(けいぶしょくどう)と呼ばれ、ほとんどが胸部食道(きょうぶしょくどう)で、お腹に入ると一部腹部食道(ふくぶしょくどう)と呼ばれますが、食道が構成される組織は同じです。食道のどの部位にがんができるかで、進展様式、特にリンパ節転移部位の頻度が大きく変わりますので、食道がんの発生部位は非常に重要です。
食道壁(しょくどうへき)は図2の右側に書いてあるように6層構造となっており、内側から粘膜上皮(ねんまくじょうひ)、粘膜固有層(ねんまくこゆうそう)、粘膜筋板(ねんまくきんばん)、粘膜下層(ねんまくかそう)、固有筋層(こゆうきんそう)、外膜(がいまく)に分かれます。一番内側の粘膜上皮は扁平上皮(へんぺいじょうひ)細胞が存在する層で、粘膜固有層には食道固有腺(しょくどうこゆうせん)があります。 食道がんはこの一番内側の粘膜上皮から発生します。ほとんどは扁平上皮が悪性化したもので、扁平上皮がんと言います。まれに食道腺由来の腺がんが発生することもあります。 食道の胃に近い部分では胃液の逆流などによって食道粘膜上皮が炎症を起こし、もともと扁平上皮であったものが腺上皮に置き換えられることがあります。これをバレット食道といい、バレット腺がんのリスクと考えられています。
いずれにしても、上皮細胞に何らかの原因で遺伝子異常が蓄積し、がん化すると考えられており、腺細胞ががん化すれば腺がんとなり、扁平上皮ががん化すれば扁平上皮がんとなります。日本人は約90%が扁平上皮がんです。
一旦発生したがん細胞は無限の増殖を繰り返しますが、目に見える大きさ(内視鏡などで肉眼的に捉えられる大きさ)になるまで早くても10年はかかると考えられています。粘膜から発生したがん細胞は、増殖しながら横方向にも広がりますが、縦方向(食道壁の外側に向かう方向)にも広がります。これを浸潤(しんじゅん)と言います。がんの進行度を評価するのはこの浸潤の程度が重要です。粘膜上皮までにとどまるがん (T1a)を早期食道がん、粘膜下層までにとどまるがん (T1b)を食道表在がん(ひょうざいがん)、固有筋層より深く浸潤するがん (T2, T3, T4)を進行食道がんと言います。
がん細胞は食道の一番外側の外膜に到達しても増殖をやめません。外膜に到達したがん細胞は時間とともに外膜の外に顔を出し、周囲臓器に浸潤していきます。すぐそばの気管や大動脈に浸潤すると、手術が出来ない原因の一つとなります。
当然浸潤の浅いがん(早期食道がん)の方が治癒しやすく、浸潤が深いがん(進行食道がん)は治癒しにくくなります。ですから浸潤が浅いうちに早期発見し、治療することが重要です。
食道がんは、腫瘍の広がりや転移の有無によって治療法に違いがあります。
早期がん(リンパ節転移のない粘膜がん)と判断されれば消化器内科で内視鏡による粘膜切除を行います。それ以外のStageIでは手術のみですが、StageII, IIIの進行がんでは近年の標準治療として確立した術前補助化学療法の後に手術を行い、再発率の低下に努めています。
進行がんでは頚部、胸部、腹部のリンパ節へ広範囲に転移することが多いため、この3つの領域のリンパ節郭清を伴う胸部食道全摘術および再建が必要です。頸部と腹部操作の際にはチーム編成を行い手術時間短縮も計っています。手術は主に胸腔鏡および腹腔鏡を用いた鏡視下手術で行っています。3領域リンパ節郭清の再建には主に胃を頸部まで持ち上げ、食道の代わりにしています。下部食道がんに対しては2領域リンパ節郭清を行うこともあります。その際も胸腔鏡下に胸腔内吻合を行い、低侵襲を心がけています。常に合併症の低下に努め、きめ細かな術後管理を行っており、合併症がなければ2~3週間前後での退院が可能です。
術前の筋肉量や栄養状態が手術成績および生命予後を左右することがわかっていますので、当院では周術期サポートチーム(Peri-Operative Support Team)が術前から介入し、フレイル予防のリハビリと栄養指導を行っています。
食道の術後は胃が細くなって持ち上がっていることが多いので、逆流症状、逆流性食道炎などを予防しなければならず、食事は大きな関心事になります。術後の入院中にも栄養指導が1-2回入り、必要なら外来通院中も栄養指導を受けられます。 退院後は当科の外来に通院し、最低5年は再発がないかどうか定期的に検査があります。5年を超えると治癒した可能性が高いと判断され、かかりつけ医や近医にお願いすることもあります。
手術にならなかった人や術後に再発が見つかった人(ステージIV)は全身の治療として化学療法や局所治療としての放射線療法があります。当院では手術のみならず、手術が出来ない人も治療をあきらめず、ガイドラインに準拠した最新の標準化学療法を積極的に行っています。
一般的に手術前日に入院し、その日のうちに麻酔医と主治医(執刀医)から手術の説明を受け、同意書などの書類にサインをします。手術当日は9時に手術室に入室し、ご家族は控室で待機していただきます。食道の手術は入室から退室まで通常10~12時間かかります。手術が終了すると、執刀医が切除標本の説明をご家族に行います。ご家族は手術開始から終了まで控室にずっと詰めておく必要はありません。事前に連絡先(携帯電話などの番号)をお知らせいただきますので、手術中は連絡が取れるようにしていただければ、自由にしていただいて構いません。手術は進行状態によっては時間が延長することがありますが、その際は手術室から連絡が入ることがあります。連絡がなく時間がかかっている場合は、手術は問題なく進行しているとお考え下さい。 術後は通常集中治療室で一泊し、翌日に一般病棟へ移ります。術後はクリニカルパスという定型化された予定に従って進みます。何事も問題が起きなければ7~10日程度で退院となります。術後は定期的に外来通院をします。
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