私たち麻酔科医の任務は、「守る」ことです。手術を受けられる方を痛みから「守る」のはもちろんですが、手術や病気による命の脅威から「守る」ことも、私たちの重要な仕事です。私たちは生命維持の専門家として、手術室だけでなく集中治療室などにおいても活動し、病院の急性期医療を支えています。外からは見えにくいところで働いていますが、どうかお見知りおきください。
当院麻酔科は常勤医5名と非常勤医師若干名で、年間2,000件あまりの麻酔を行っています。手術に関わる人すべてに、なるべく安全で快適な環境を提供することを目標としていますので、手術室での全身麻酔と脊椎麻酔はすべて麻酔科で担当しています。また、従来主治医が行ってきた処置中の鎮静や伝達麻酔も、本来は患者さんに一番近いところにいる麻酔科医のほうが適任であり、必要に応じて協力しています。
真夜中でも休日でも、緊急手術があれば麻酔科医の出番です。麻酔科医は常に病院にいるわけではありませんが、呼び出されたら、睡眠、家の掃除、その他すべてを中止して出勤します。
手術はからだに負担をかけます。麻酔そのものが、からだを傷めてしまう可能性もあります。何らかの疾患をお持ちの方ですと、リスクが高くなるかもしれません。どのような場合でもできるだけの安全確保に努め、最善の結果が得られるよう、心がけています。
また、麻酔科は集中治療室等においても気管挿管、人工呼吸治療などに携わり、主治医の重症患者管理に協力しています。
麻酔科医は原則として手術の前日までに、手術を受けられる方にお会いし、麻酔の方法と危険性について詳しくご説明します。麻酔や手術に関するご質問、ご心配がありましたら、このときご遠慮なくご相談下さい。
麻酔には主に以下のような方法があります。
点滴から睡眠剤を投与し、苦痛なく眠っていただきます。入眠後は口から気管まで管を挿入し、呼吸を守ります。手術中は気管チューブあるいは点滴から持続的に麻酔薬を流し続けますので、途中で麻酔が切れて目が覚めてしまうようなことはありません。手術が終われば麻酔を止めて、目をさましていただきます。
麻酔を開始する時、口元に酸素マスクを当てます。麻酔は点滴から入りますから、眠るのに何の努力もいりません。注射が嫌いなお子さまの場合は、マスクから麻酔ガスを流して、眠っていただくことがあります。
入眠後、このようなチューブを口から入れ、気管まで進めます。酸素を確実に吸っていただくためです。ご本人はチューブのことを覚えていませんが、術後、のどの痛みが残ることがあります。
背中からごく細い針を刺し、脊髄を浸している脊髄液に局所麻酔薬を注入します。下半身のみ無感覚になり、痛みなく手術を受けていただけます。手術中目は覚めていますが、必要であれば点滴から鎮静剤を入れて眠っていただくこともあります。
ベッドの上で横向きになり、ネコのように丸くなっていただいてから、背中から注射をします。決して神経そのものに針を刺すわけではありませんから、痛いと言っても普通の痛さです。
術後鎮痛の手段としてもっとも強力なので、腹部や胸部などの”あとが痛い”手術ではしばしばこの硬膜外麻酔を全身麻酔に併用します。脊椎麻酔のときと同じように背中に注射しますが、術後に鎮痛剤を持続注入できるよう、細いチューブを挿入します。注射は全身麻酔がかかる前に行わなければならないので、ご協力をお願いします。
注射の方法は上の脊椎麻酔とほぼ同じですが、図のように細いチューブを残しておき、術後に鎮痛剤を持続注入します。
エコー(超音波診断装置)を使って手や足に行く神経を見定め、局所麻酔薬を注入します。手のみを単独で麻酔することもありますし、手や足の術後の鎮痛のために全身麻酔に併用することもあります。
エコーで見ながら、神経の周囲に薬を注入します。
全身麻酔を必要とするほどの手術であれば、どんなに小さい手術でも、外科医2人、手術室看護師2人、麻酔科医1人の5人は必要です。大きな手術であれば交代なども必要ですから、関わる人は10人を超えるでしょう。それだけのスタッフが、ただ1人の患者さんのために働きます。
手術を開始する時、主治医は他のスタッフに対し、「お願いします」と声をかけるのが昔からのならわしです。質の悪い医療ドラマなどですと、「おいみんな、用意はいいか」などといばっている外科医がいますが、ありえない光景です。一旦手術を始めてしまうと、外科医は周囲から助けてもらわないと何もできない人になってしまうからです。
手術はチームワークで行うものであると、ご理解いただけたら幸いです。(2022年1月1日、榎)
手術を受けられる方に麻酔の説明をするとき、お酒に関する質問をよくいただきます。「自分はお酒に強いのだが、麻酔が効きにくいんじゃないだろうか」、あるいは逆に、「お酒に弱いので、麻酔が効きすぎて目が醒めないのでは」といったことを心配されるようです。
お酒に強いかどうかは、主にアルコールを代謝する酵素が、生まれつき多いか少ないかで決まります。この酵素は、全身麻酔に使う麻酔薬とは何の関係もありませんから、お酒に強い方も、弱い方も、ご心配は無用です。
確かに、麻酔の効きやすさには多少の個人差はあります。しかし麻酔科医は、十分な効果が得られるよう、反応を見ながら薬を使いますから、麻酔が効かないということはありません。ご安心ください。(2022年4月15日、榎)
今回は手術室特有のルールをご紹介します。
患者さんの傷口に触れる人や器具は、清潔でなければなりません。菌が体内に入らないようにするためです。器具ならば高圧蒸気滅菌などで完全な消毒ができますが、外科医や看護師を高圧蒸気滅菌するのは、たぶん無理でしょう。そこで、人の場合は滅菌したガウンと手袋をつけさせて、「清潔」と見なすことにしています。
手術室では、清潔でないものはすべて「不潔」です。洗濯したての真っ白なシーツも、ピカピカに磨いた床も、手術室ルールで言えば不潔なのです。医師が外来などで、「そこの不潔のハサミ、取ってくれへん?」などと言ってしまうことがありますが、これは患者さんの前で手術用語が漏れ出たのです。「滅菌していない」という意味であって、汚れたハサミを使おうとしているわけではないので、びっくりしないでください。
人や物が清潔かどうか、見た目だけではわかりません。外科医が清潔の格好をしていても、不潔なものに触れた途端、不潔になってしまうのです。一方、不潔なものが清潔なものに触れても、清潔にはなりません。何が清潔で、誰が不潔か、手術室で働く者は常に互いにチェックしながら動いています。
後か不幸か、麻酔科医はほぼ一年中不潔側にいますので、この清潔と不潔のにらめっこに関しては、もっぱら見守る側です。(2023年1月11日、榎)
あるとき私が、手術室受付の机の上で探しものをしておりますと、それを見ていた3年目の看護師が、これですか、とペン型の修正液を渡してくれました。私が探していたものでした。超能力ですかと聞くと、違うとのことでした。私がペン立ての中から水色のマーカーペンを取り出し、また戻すのを見て、分かったそうです。つまりこれは、世に知られざる手術室看護師のすご技だったのです。
新人手術室看護師はまず、清潔介助と言って外科医の手術の介助から仕事を覚え始めます。メス、攝子(ピンセット)など、外科医に言われてから器具を探すようでは全然だめで、手術の進行状況や術者の手の動きを判断し、つぎはどの器具が必要かを先読みしなくてはなりません。覚えなくてはならない手術手順はおそらく数百、手術器具は数千種類にのぼるのではないかと思われます。
手術室看護師はあるレベルを超えてしまうと、すべてのことに関して、普通の人が見逃すようなささいなことからでもつい「気づいて」しまい、「先読み」してしまうようになるのかもしれません。恐ろしいことです。(2024年5月23日、榎)
名前 | 榎 泰二郎 |
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役職 | 部長 |
卒年 | 昭和62年 |
専門分野 | 麻酔全般 |
認定医・専門医・指導医 | 麻酔科標榜医 日本麻酔科学会専門医 |
名前 | 岡崎 俊 |
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役職 | 医長 |
卒年 | 平成10年 |
専門分野 | 麻酔全般、疼痛管理 |
認定医・専門医・指導医 | 麻酔科標榜医 日本麻酔科学会専門医 日本ペインクリニック学会専門医 |
名前 | 星 歩美 |
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役職 | 医長 |
卒年 | 平成22年 |
専門分野 | 麻酔全般 |
認定医・専門医・指導医 | 麻酔科標榜医 日本麻酔科学会専門医 |
名前 | 原 妹那 |
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役職 | 副医長 |
卒年 | 平成25年 |
専門分野 | 麻酔全般 |
認定医・専門医・指導医 | 麻酔科標榜医 日本麻酔科学会専門医 |
名前 | 李 由希 |
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役職 | 副医長 |
卒年 | 平成27年 |
専門分野 | 麻酔全般 |
認定医・専門医・指導医 | 麻酔科標榜医 日本麻酔科学会専門医 |
名前 | 河端 栞里 |
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役職 | 専攻医 |
卒年 | 令和4年 |
専門分野 | 麻酔全般 |
認定医・専門医・指導医 |
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | ||
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麻酔科管理症例数 | 2,069件 | 2,404件 | 2,600件 | |
全身麻酔件数 | 1,755件 | 2,017件 | 2,257件 | |
専門医資格に必要な経験症例数 | 胸部外科 | 99件 | 114件 | 126件 |
帝王切開 | 67件 | 71件 | 74件 | |
小児(5歳以下) | 11件 | 5件 | 6件 |
※令和3年度実績については、コロナ禍の影響を大きく受けています。
〒653-0013
神戸市長田区一番町2丁目4番地
地図で見る Tel: 078-576-5251
Fax:078-576-5358(代表)/ 078-579-1943(病診連携室)
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