整形外科部長の西口滋と申します。2004年9月に当院に赴任してきてから、もうすぐ20年になります。当病院全体の医師数が増加してきたのと同様、当科も当初3名から始まり、現在では6名となっています。それだけ当科の需要が増加してきているということです。
当院の主な診療圏である兵庫区、長田区は神戸市の中でも高齢化率の高い地域であります。日本全体でも平均寿命は徐々に伸びて行っており、これは喜ばしいことではあります。また健康寿命(自立した生活が可能な年齢)も伸びてはいます。しかしながら平均寿命と健康寿命の差は介護が必要な期間を意味しますが、2016年で男性8.84年、女性で12.35年もあります(厚生労働省 令和2年度版 厚生労働白書)。しかもこれは2001年のそれぞれ8.67年、12.28年よりやや長くなっています。健康寿命を延長させるために介護が必要になる原因としての運動器の病気やケガを減らせていくことが重要と考えています。したがって、高齢者の方には運動器のケガや病気を治療して、自分の足で歩行できる自立した生活をより長く送っていただくことが私たちの目標です。患者さんの対象は高齢者の方のみではありません。若い方々では、元の通りにスポーツや仕事ができるように協力して治療させていただくことが目標になります。
私たち整形外科では、運動器すなわち頭部を除く運動と関連した部分を扱う診療科であります。すなわち脊椎および上肢と下肢を担当しております。
病院である以上、診療所ではできない検査や入院しての手術治療を中心とします。しかしながら、治療方針が決まるまでの間、保存的治療を行うこともあります。また術後の患者さんの経過観察を行うのも、外来診療の大切な役割です。
当院では運動器のすべての疾患の診療をしております。しかし整形外科も非常に専門分化が進んでます。当院よりも良い治療のできる他の医療機関に紹介させていただく場合もあります。それは、一部の上肢疾患、外傷以外の小児疾患、悪性骨腫瘍骨軟部腫瘍等です。
当科で得意としている分野は以下の通りです。
当科で治療を行っている代表的な脊椎疾患
部位 | 疾患名 |
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頚椎 | 頚椎症性脊髄症、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、頚椎後縦靭帯骨化症 |
胸椎 | 胸椎症性脊髄症,胸椎後縦靭帯骨化症、胸椎黄色靭帯骨化症,胸椎椎間板ヘルニア |
腰椎 | 腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり(変性すべり、分離すべり)症、腰椎変性側弯症、腰椎後側湾症 |
その他 | 骨粗鬆症性椎体骨折、透析による脊椎疾患、化膿性脊椎炎、転移性脊椎腫瘍 |
※小児・思春期側弯症手術や脊髄原発腫瘍手術については、適切な他の医療機関に紹介させて頂くことがあります。
脊椎疾患領域では外来での診察、内服薬や各種ブロック注射よる保存的治療から始まり、最終的な手段としての手術的治療まで提供してまいります。多くの患者さんは手術に頼らないでも軽快、治癒されるため、治療の原則は保存的治療と考えております。しかし、四肢の運動障害や疼痛が顕著な場合、麻痺が生じている場合や排尿・排便障害が生じている場合には、手術的治療を考慮することになります。
手術が必要になった場合は、手術用ルーペ、手術用顕微鏡や神経モニタリングを用いて安全に手術を行っております。高齢者人口の増加に伴い、脊椎手術が必要な脊椎変性疾患の方が増加しています。高度の変性や不安定性を伴う場合はinstrumentationの併用が必要になることがあります。その際は、できるだけ低侵襲な手術にするため、胸腰椎に対してはMIST(Minimally Invasive Spinal Treatment)手技の一つである経皮的椎弓根スクリューを使用しています。従来は、腰背筋を外側へ広く剥離してから椎弓根スクリューを挿入していたため、脊椎後方組織に大きな侵襲を加える必要がありました。経皮的椎弓根スクリューは、それぞれ2㎝程度の小さな創部からスクリューやロッドを挿入することができるため、脊椎後方組織への侵襲は大きく減少しました。
手術に際し常に心掛けていることは、「標準的な手術を安全、確実に行う」ということです。脊椎手術の場合、手術後にしびれなどの症状が残りやすいため、患者さんに深く向き合わなければならないと思っています。そのため、迷った時には、自分の家族ならどのように治療するかと考えながら、患者さんが訴えられる症状に耳を傾け、丁寧な診察を心がけています。
歩行すると下肢に疼痛、しびれや主だるさが出現して出て歩きにくくなります。しかし、前屈位になったり、座ると症状が軽減します。進行すると下肢の筋力が低下したり、排尿障害が出現することがあります。
通常の脊柱管狭窄症の場合には、背中の筋肉や骨をできるだけ温存しながら神経の圧迫を取り除く棘突起縦割椎弓切除を行っています。
椎間不安定性を伴う腰椎変性すべり症、腰椎分離すべり症、腰椎変性側弯症や腰椎椎間孔狭窄症に対しては、脊椎インプラントを併用する固定術を追加する場合があります。経皮的椎弓根スクリューを使用するMIS-PLIFやMIS-TLIFを行うことで低侵襲化を図っています。
側腹部から数cmの皮膚切開で椎体間にケージを入れる手技です。経皮的椎弓根スクリューを併用する事で、筋肉への侵襲を最小限にする手術が可能です。脊柱管狭窄に対する間接除圧の効果があるとともに、変性側弯や脊柱のアライメント異常の矯正などに有効です。優れた手技ですが、大きな合併症の報告がありますので、当科では主に多椎間の固定を要する症例や再手術の症例に対して、術前に綿密な検査を行った後に行うようにしています。
肢のしびれ、手指の巧緻運動障害や歩行障害が出現します。診断が遅れ、病状が進行すると歩行できなくなることがあります。
多くの症例では後方から神経の圧迫を取り除く椎弓形成術を行っています。
脊髄の圧迫要素が前方にあり、頚椎後弯(前かがみ気味)の症例には頚椎前方除圧固定術を行います。
通常、骨折脊椎は少し変形を残す状態で骨癒合します。しかし、一部の症例で、骨が癒合せず強い疼痛や下肢麻痺が生じることがあります。これらの症例に対して、経皮的に骨折椎体内にBalloonを挿入し、Balloonを膨らませて変形した椎体を可能な範囲で整復します。Balloonを抜去して、形成された椎体内の空間に骨セメントを注入し固定します。骨折の形態によっては経皮的椎弓根スクリューによる後方固定を併用することがあります。椎体形成術だけで不十分な場合は固定術を追加します。
近年、高齢者社会が進むとともに、転移性脊椎腫瘍脊椎や化膿性脊椎炎に罹患する方が増加しています。手術ではできる限り低侵襲な手術を目指し、化膿性脊椎炎や転移性脊椎腫瘍の手術にもMIST手技の一つである経皮的椎弓根スクリューを使用しています。通常の手技に比べ、術中・術後の出血量が少なく身体に対する負担が少ないために早期のリハビリが可能になります。今までは手術侵襲のために手術的治療ができなかった患者さんにもMIST手術を行うことで、健康予後を大きく改善する事ができると考えています。
外傷の手術は当科での手術の約3分の1を占めます。以下のようによく遭遇する骨折を含む外傷は当科で対応可能です。
上肢 | 下肢 |
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鎖骨骨折 | 大腿骨近位部骨折、骨幹部骨折、遠位端骨折 |
上腕骨近位部骨折、骨幹部骨折。遠位端骨折 | 膝蓋骨骨折 |
肘周辺骨折、脱臼骨折 | 脛骨近位端骨折、脛骨骨幹部骨折、脛骨遠位端骨折 |
前腕骨骨幹部骨折 | 足関節周囲の骨折、脱臼骨折 |
橈骨遠位端骨折 | 距骨骨折、踵骨骨折 |
舟状骨を中心とした手根骨骨折 | 足根骨、中足骨骨折 |
中手骨、手指の骨折 | アキレス断裂 |
手指の切創、腱損傷 |
歩行に関しては、下肢全体(股関節、膝関節、足関節、足部)を総合的に診ることが重要であり、そのような診療を心がけております。
現代では人工関節は著しく進歩してきています。ある程度の年齢以上の患者さんでは、関節がひどく傷んだ時の選択肢としてまず第一番目に挙げられます。
人工股関節置換術は技術の進歩で素材やデザインが改良されて、より長期の成績が見込めるようになってきています。いろいろな機種が開発されていますが、それぞれの患者さんに適したものを選択しています。また早期の回復や脱臼防止の目的で可能な方では、筋肉を切らない方法での手術をしています。
膝関節人工関節置換術 通常の膝全人工関節置換術(TKA)も患者さんに合った人工関節の機種を選択して正確なインプラント設置のためナビゲーションや簡易ナビゲーションを用いた手術をしています。TKA以外にも変形性膝関節症の方には年齢や活動性を考慮して単顆型人工関節(UKA)や膝周辺の骨切り術をお勧めすることもあります。
変形性足関症では、まだ人工足関節の長期耐用性が保証されていませんので、関節固定術を選択することが多いです。また外反母趾を含む足の変形に対しても中足骨骨切りと他の足趾の手術と組み合わせて施行しています。
名前 | 西口 滋 |
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役職 | 副院長(整形外科部長 兼務) |
卒年 | 平成元年 |
専門分野 | 関節外科、骨粗鬆症、関節リウマチ |
認定医・専門医・指導医 | 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会研修指導者 日本骨粗鬆症学会認定医 日本整形外科学会リウマチ認定医 日本人工関節学会認定医 日本整形外科学会認定スポーツ医 |
名前 | 布施 謙三 |
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役職 | 参事 (リハビリテーション科部長 兼務) |
卒年 | 昭和62年 |
専門分野 | 関節外科、スポーツ整形、リハビリテーション |
認定医・専門医・指導医 | 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医 日本整形外科学会認定スポーツ医 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医 日本整形外科学会研修指導者 |
名前 | 藤原 弘之 |
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役職 | 医長(リハビリテーション科医長 兼務) |
卒年 | 平成8年 |
専門分野 | 関節外科、リハビリテーション、骨折治療 |
認定医・専門医・指導医 | 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会研修指導者 日本東洋医学会漢方専門医 日本リハビリテーション医学会認定臨床医 日本スポーツ協会公認スポーツドクター 日本整形外科学会認定スポーツ医 日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医 日本整形外科学会リウマチ医 義肢装具等適合判定医師 |
名前 | 山根 逸郎 |
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役職 | 医長 |
卒年 | 平成9年 |
専門分野 | 脊椎外科、骨折治療 |
認定医・専門医・指導医 | 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医 日本整形外科学会研究指導者 臨床研修指導医 |
名前 | 小田 竜治 |
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役職 | 医長 |
卒年 | 平成12年 |
専門分野 | 整形外科全般 |
認定医・専門医・指導医 | 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会リウマチ認定医 日本整形外科学会認定スポーツ医 日本リハビリテーション医学会認定臨床医 臨床研修指導医 日本パラスポーツ協会認定パラスポーツ医 |
名前 | 橋村 卓実 |
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役職 | 副医長 |
卒年 | 平成23年 |
専門分野 | 整形外科一般 |
認定医・専門医・指導医 | 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医 日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医 日本手外科学会認定手外科専門医 |
名前 | 中本 貴己 |
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役職 | 専攻医 |
卒年 | 令和4年 |
専門分野 | |
認定医・専門医・指導医 |
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
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午前 |
【1診】西口 ※1
【2診】山根 予約のみ 【3診】橋村 ※1 |
【1診】小田
【2診】藤原 予約のみ |
【1診】藤原
【2診】西口 予約のみ
【3診】布施 予約のみ |
【1診】山根 ※2 脊椎
【2診】橋村 予約のみ
【3診】中本 ※2 |
【1診】布施 関節外来
【2診】小田 予約のみ
【3診】中本 予約のみ |
午後 |
【1診】西口 【2診】山根 【3診】橋村 |
【1診】小田 【2診】藤原 |
【1診】藤原 【2診】西口 【3診】布施 |
【2診】橋村 【3診】中本 |
【1診】布施 【2診】小田 【3診】中本 |
午後の診察は予約のみ
※1 月曜日午前の予約外の診察は西口・橋村の2人体制で担当
※2 木曜日午前 予約外の診察は1・3診の2人体制で担当
整形外科年間手術件数709例(主な手術術式の件数)
脊椎・脊髄外科 頸椎 | 23例 |
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脊椎・脊髄外科 胸・腰椎 | 123例 |
関節外科 股関節 人工関節 | 45例 |
関節外科 股関節 人工関節再置換 | 4例 |
関節外科 股関節 人工骨頭 | 39例 |
関節外科 膝関節 TKA | 44例 |
関節外科 膝関節 人工関節再置換 | 4例 |
関節外科 膝関節 UKA | 6例 |
関節外科 膝関節 半月板 | 1例 |
関節外科 肩関節 | 4例 |
関節外科 肘関節 | 5例 |
関節外科 足の外科 | 9例 |
外傷外科 骨接合術 上肢 | 147例 |
外傷外科 骨接合術 下肢 | 95例 |
手の外科 腱・靭帯手術 | 31例 |
末梢神経手術 | 31例 |
骨軟部腫瘍 | 7例 |
その他 | 79例 |
手術に至る患者さんはかなりの割合が他の医療機関からの紹介患者さんです。丁寧な診察説明と安全な手術を心掛けています。入院手術が必要な患者さんはできるだけ早期にと努力していますので、長くお待たせすることはないかと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
〒653-0013
神戸市長田区一番町2丁目4番地
地図で見る Tel: 078-576-5251
Fax:078-576-5358(代表)/ 078-579-1943(病診連携室)
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