日本人女性のがんの第1位は乳がんで、現在も年々増加しており、いまや10人に1人が乳がんにかかる時代となりました。乳がんは、他のがんとくらべると比較的若い女性に多いと言われていますが、日本も欧米と同様、高齢の乳がん患者さんも、急激に増えていく傾向にあります。更にその傾向は、高齢者が多く住む都市部郊外や地方で一層顕著です。しかしながら、ご高齢の方は、基礎疾患などのリスクにより、十分な標準治療が行えないのも現状です。
当院では、2016年1月から乳腺外科が独立し、乳がんの診断から手術・薬物治療・再発後の治療までの一貫した診療を行ってきました。更に、麻酔科、呼吸器内科、循環器内科、糖尿内分泌内科などと院内連携を緊密に図り、リスクのある患者さんも積極的に受け入れ、治療できる体制を整えてきています。また薬剤部、看護部、臨床検査部他、様々な職種が協力してone teamを作り、より強固な協力体制を構築しております。
今後、乳腺外科は、その中心的な存在として、リスクが高かったり、高度進行がんである患者様に対しても、“あきらめない治療”を提供させて頂くことを心がけたいと思います。
欧米では乳がんの死亡率が低下傾向にあるにも関わらず、日本の乳がん死亡率は依然として上昇傾向が続いています。その原因の一つとして、日本人女性の乳がん検診率が50%弱と欧米(70~80%)と比較して低いことが挙げられます。特に2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、検診率は29.6%と前年度と比較して大きく低下を認めました。自覚症状がなく検診で要精検となった症例は、初期であることが期待できますが、現在のコロナ禍では受診控えが進み、症状が出現した際にはがんが進行してしまっている可能性があります。当院ではあいにく検診を行っておりませんが、症状がある患者さんや検診で要精検となった患者さんには予約外であっても積極的に診察・精査させていただいております。
乳腺には様々な病気がありますが、患者さんにとって乳がんであるかどうかが一番大きな問題となります。当院では受診された当日に医師が問診を行い、触診やベッドサイドエコーを行います。乳がんが疑われた場合は、同日にマンモグラフィや検査室での乳腺エコー検査を行い、可能な限り早くエコーガイド下に針生検を行い、病理検査により確定診断を行います。診断が困難な場合は、組織採取量が多い吸引式針生検(マンモトーム生検)や切除生検を積極的に行っています。
尚、マンモグラフィ装置についてですが、当院では2019年より最新式のマンモグラフィを導入し、トモシンセシスという断層写真が撮影可能となりました。
トモシンセシスはX線の管球を移動させることにより断層像を撮影しており、マンモグラフィの弱点である高濃度乳房(若年や未授乳の女性に多い)についても、より精度の高い検査が行えます。初診の患者さんには基本的に全例、通常の2方向撮影に加えてトモシンセシスを撮影しており、より病変を同定しやすい工夫をしています。
また、エコー検査で同定できずマンモグラフィ検査でしか異常を認めない石灰化症例の場合には、マンモグラフィ下で生検を行う必要があり、その場合には神戸市立医療センター中央市民病院と連携し、検査を依頼しております。
乳がんの確定診断が得られましたら、乳がんを4つのサブタイプ(乳がんの4種類の性格分類)に分け、各々のタイプに適した個別化治療を行います。
さらにできるだけ早く、乳腺専用MRIで乳房内の広がり診断を、CTで他臓器転移の有無を検索し、最終的な治療方法を決定します。また希望される方には、治療方法の決定に遺伝子診断(Oncotype DX)も用いています。
Stage 0~IIIまでの乳がんは根治可能と考え、手術を行います。当院では精査が終わり次第可能な限り早急に手術を行える体制にあり、手術までの待機時間はほとんどありません。診断から待機時間が少なく手術を行うことにより、患者さんに安心していただけると日々実感しております。
また当院では、※センチネルリンパ節生検として、赤外線観察カメラシステム(PDE)を用いて、腋窩のリンパ管や腋窩リンパ節を蛍の光のように描出できる蛍光色素法を採用しており、経験豊かな病理医の術中病理診断と相まって、高い診断率で手術を行うことができています。
またサブタイプにより抗がん剤等の化学療法が有効と判断された場合、乳房温存率の向上や乳がん治療の効果を上げる為、積極的に術前化学療法を行っております。
尚、当院では現在のところ乳房再建をおこなっていませんが、近日人工物(インプラント)による再建ができる体制を整えていく予定です。
※センチネルリンパ節とは、乳房内の原発巣から乳癌細胞が最初にたどり着くリンパ節と定義され、このリンパ節を発見・摘出し、更に癌細胞があるかどうかを顕微鏡で調べる一連の検査をセンチネルリンパ節生検と呼びます。センチネルリンパ節に転移が無い場合は、不必要な腋窩リンパ節郭清を省略できます。その結果、腋窩リンパ節郭清による浮腫やしびれなどの後遺症を回避することができます。
乳がんは全身病という考え方であり、非浸潤がん(Stage 0)以外は、サブタイプをみて、ホルモン治療や抗がん剤を行う必要があります。患者さんの既往や周囲のサポート力を考慮し最適な治療法を考えてまいります。例えば既往に慢性腎臓病のある患者さんであっても、腎臓内科と連携しながら積極的に治療を行っています。
また、Stage IVや転移・再発の患者さんは、薬物療法が中心となりますが、ホルモン治療に加え、CDK4/6阻害剤やmTOR阻害薬といった新しい分子標的薬の併用治療にはじまり、殺細胞性抗がん剤による治療を行っていきます。更に適応があれば、分子標的薬, 免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた最新の治療を行っています。
当院では患者さんの希望及び全身状態を考慮しつつ、可能な限り治療を続けています。
“治療をあきらめないこと”をモットーにこれからも患者さんと一緒に頑張っていきたいと思います。
乳房温存術に関しては局所再発率を下げる為、術後残存乳腺に対する放射線治療が基本となります。また乳房全切除後の患者さんであっても、腋窩リンパ節転移が多数存在した場合などは術後放射線療法の適応となります。当院自体には放射線治療装置はございませんが、週1回神戸低侵襲がん医療センターより放射線治療の先生が診察にきてくださっており、同施設と密に連携をはかりスムーズに治療を行える体制が構築されています。
2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんのリスクを下げる為、に乳房切除術を受けたことは、まだ記憶に新しいことと思います。
乳がんの5~10%は遺伝性であるといわれており,それを判断するには専門的な詳しい評価が必要です。
当科でも、2019年より遺伝性乳癌・卵巣癌の原因遺伝子であるBRCA遺伝子検査を行える環境を整え、検査を開始しております。更に、2020年より、乳がんと診断された人で、45歳以下、60歳以下のトリプルネガティブ乳がん(乳がん4つのサブタイプ内の1つ)、2個以上の原発性乳がん、男性乳がん、卵巣がん・卵管がん・腹膜がん、3親等以内に乳がん・卵巣がんを発症した血縁者がいる場合にはBRCA遺伝子の測定が保険で可能となりました。
このように、近年遺伝学的検査に取り組む気運が高まっており、遺伝子パネル検査という最新のがんの遺伝子検査につきましても、神戸市立医療センター中央市民病院や神戸大学、兵庫県立がんセンターなどへ積極的に紹介させていただき、最先端の治療が行える体制を構築しています。
名前 | 三瀬 昌宏 |
---|---|
役職 | 部長 |
卒年 | 昭和61年 |
専門分野 | 乳腺外科 |
認定医・専門医・指導医 | 日本外科学会認定医 専門医・指導医 日本乳癌学会認定医 専門医・指導医 日本消化器外科学会認定医 日本臨床腫瘍学会 暫定指導医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 日本静脈経腸栄養学会認定医 検診マンモグラフィ読影認定医 |
名前 | 大久保 ゆうこ |
---|---|
役職 | 副医長 |
卒年 | 平成28年 |
専門分野 | 乳腺外科 |
認定医・専門医・指導医 | 日本乳癌学会乳腺認定医 検診マンモグラフィ読影認定医 日本外科学会外科専門医 |
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | |
---|---|---|---|---|---|
午前 |
【3診】三瀬 |
- |
【3診】★大久保 |
- |
【3診】三瀬 |
午後 |
【2診】★大久保※1 【3診】三瀬※1 |
【3診】矢田※1 |
- |
【3診】三瀬※1 |
【3診】三瀬※1 |
乳腺外来
月・水・金曜日 午前診の受付は11時まで
予約患者さん優先となります
※1 予約診察のみ
今後も地域の医療機関の方々との連携協力をさらに深め、地域医療に貢献して参ります。地域の医療機関の皆様には是非、今後とも大きなご支援をお願い申し上げます。
また、診断や治療にお困りの症例がございましたら、当院にご紹介いただければ幸いであります。どうぞ宜しくお願いいたします。
〒653-0013
神戸市長田区一番町2丁目4番地
地図で見る Tel: 078-576-5251
Fax:078-576-5358(代表)/ 078-579-1943(病診連携室)
病院案内
当院のがん診療について
外来のご案内
入院のご案内
診療科・部門のご案内